大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 平成9年(行ウ)12号 判決 1997年12月26日

主文

一  原告らの各訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

〔中略〕

第三 当裁判所の判断

一  争点1について

(一)  行政処分取消訴訟の原告適格について、行政事件訴訟法九条は「法律上の利益を有する者」と規定するところ、この法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も前記の法律上保護された利益に当たるというべきである。この法律上保護された利益は、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益として保護する結果、すなわち、公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果、たまたま一定の者が受けることになる反射的利益ないし事実上の利益とは区分されねばならない。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法現の趣旨、目的、当該行政法規等が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容、性質等を考慮して判断されねばならない(最判昭和五三年三月一四日民集三二巻二号二一一頁、最判平成元年二月一七日民集四三巻二号五六頁、最判平成四年九月二二日民集四六巻六号五七一頁、最判平成四年九月二二日民集四六巻六号一〇九〇頁各参照)。

(二)  そこで、原告らに原告適格があるのは、原告らが法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある場合であり、本件確認処分の根拠法規が、その趣旨、目的及び関連法規等に照らすなどして、原告らの主張する前記第二、二1(一)(1)ないし(6)の権利、利益を保護して行政権の行使に制約を課していると認められる場合であることになる。

ところで、原告らの侵害されると主張する法律上保護された利益のうち、前記第二、二1(一)(1)ないし(4)の騒音、排気ガス、交通の危険及び照明等の被害は、原告らも自認するとおり、都市においてはある程度、その発生が避けられず、行政法規が、特にこれらから免れる利益も住民の個人的利益として保障するのであれば、基準を示す技術的規定を設けるなど何らかの措置が必要となる。建築基準法(法一九条、二六条、二七条、五六条の二、)も、日影被害、隣家からの延焼や排水による建築物被害、衛生被害については、右の趣旨に鑑み、具体的規定を設け建築確認処分の名宛人以外の近隣住民の個別的利益を保護している。これに対し、原告らの主張する前記第二、二(一)(1)ないし(4)の利益については特段の規定がない。

また、前記第二、二(一)(1)ないし(4)記載の多くの問題は、本件建物への来場車によりもたらされるものであり、本件確認処分の根拠法規である建築基準法が規制している当該建築物の敷地、構造及び建築設備自体(法六条一項)というより、本件建物内での営業に関わり発生するものであって、本件確認処分により発生する被害とは言いがたい。

そうすると、建築基準法が、右利益を具体的、個別的利益として近隣住民に保障しているとは認められない。

(三)  原告らは、前記第二、二1(一)(5)のとおり、良好な住居の環境のもと、静穏で快適な生活を享受できる権利が保障されていると主張する。

確かに、建築基準法は、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的(法一条)とすると規定し、直接的には、公共の利益の維持増進を目的としつつ、この場合の公共の利益を構成する近隣居住者等の一定の具体的、個別的生活利益も、前記のとおり保障している。

原告らは、環境権の根拠として、第一種中高層住居専用地域に関する各規定の存在を上げている。しかし、右地域を規定する地域地区の規制に関する都市計画法八条一項は、建築物の用途、密度等を適正に配分すことにより、都市活動の機能性、都市生活の安全性、利便性等の増進を図ることを目的とし、用途地域も、右目的に従って、地域全体の環境保全を図る見地から、一定の基準を定立して、一定の地域につき一般的に定めるものである。また、用途制限に関する諸規定(建築基準法二条一項二一号、四八条及び都市計画法八条、九条)も、抽象的な規定を置くに止まり、専ら公益の保護を規定したものと認められ、一般的公益に吸収、解消されない具体的個別的利益を保護しているとは解されず、原告らの主張する良好な住居環境における生活というのは、前記公益の保護の結果、すなわち、建築基準法及び都市計画法の規定の適正な執行運用によって得られる反射的利益又は事実上の利益に過ぎない。

したがって、原告らの主張する右権利、利益は、本件確認処分の根拠法規及び関連法規において法律上保護された権利、利益とは認められない。

(四)  さらに、原告らは、都市計画法が都市計画の内容等を定める法規範であり、右目的を達成するため、第一種中高層住居専用地域を設け、これを受けた建築基準法は、第一種中高層住居専用地域内に建築することができる建物を制限的に列挙しているという法の趣旨からして、良好な住居環境を享受できる権利、利益が、建築基準法及び都市計画法により法律上保護された利益であると主張する。

右の各法文が法規範であり、建築基準法は第一種中高層住居専用地域内に建築することができる建物を制限的に列挙していることは所論のとおりであるが、法規範であっても、専ら公益を保護する趣旨の法規範はありうるし、建築基準法が第一種中高層住居専用地域内に建築することができる建物を制限的に列挙していることも、前記の公益保護を図るためであると解することができ、当然に右の各法文の法規範性、法の規定の仕方から、都市計画法及び建築基準法が良好な住居環境を享受できる権利、利益を近隣住民の個々の具体的、個別的利益として保障しているとは認められない。

(五)  原告らは、前記第二、二1(一)(6)のとおり、本件確認処分により建物所有権、占有権が侵害されると主張するが、建築確認処分が、同処分の名宛人ではない原告ら近隣住民の右権利を直接制約、侵害すると認める根拠も明らかでないし、仮に侵害を受けるとしても、それは結局、前記第二、二1(一)(1)ないし(4)の騒音等の問題に帰結し、同利益が、前記のとおりいずれも法律上保護された利益と認められない以上、原告らの右主張は当を得ない。

二  結論

以上のとおり、その余について判断するまでもなく、原告らには原告適格が認められないから、本件請求はいずれも却下する。

(裁判長裁判官 水口雅資 裁判官 三木昌之 遠藤浩太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例